局所麻酔薬のキシロカインアレルギーについて
- 2024年1月13日
- 歯科
こんにちは。院長の中村です。
今日の話の内容は
「キシロカインアレルギーがありますが、手術はできますか?」
という質問に対する答えです。
そもそも、キシロカインとは何でしょうか。これは、局所麻酔薬の名前です。一般名はリドカインです。キシロカインは商品名となります。
キシロカインは日本で最も多く用いられている局所麻酔薬となります。浸潤麻酔薬としてはほぼ唯一使用されている薬剤といっても過言ではありません(浸潤麻酔:手術したい局所に注射してその周囲に薬剤を浸潤させて効かせる麻酔のこと)。
このキシロカインを用いた手術や処置を過去に受けてアレルギー症状あるいはアレルギー類似症状が出た方がキシロカインアレルギーの疑いがある、ということになります。
アレルギーが疑われる症状としては
・血圧低下、脈拍低下
・顔面蒼白
・意識消失
・過呼吸
などがあげられます。
しかし実際にこれが本当にアレルギーのよるものかという点は検討する必要があります。なぜかというと、これらの症状は実はアレルギーによるものではなく、”迷走神経反射”によるものである可能性があるからです。むしろその可能性が大半なのです。
迷走神経反射とは
迷走神経反射とは、採血や手術などの強いストレスがかかったり、痛みが生じる処置を受けた際に迷走神経という体のレスポンスを抑制する方向に動かす神経が優位となり、血圧や脈拍が下がり、その影響でめまいがしたり、意識が朦朧としたりする反応です。
逆に交感神経が優位となると、いわゆる”アドレナリンが出ている”状態となり、血圧があがり、脈拍も上がり、体がストレスに立ち向かえる状態となります(一種の戦闘態勢)。
もし気分が悪くなった原因が迷走神経反射だった場合は、いくら薬剤の種類を変えても、薬剤に対するアレルギーではないのですから根本的な解決にはなりません。
この場合は、不安を抑え、痛みを感じにくくするために、十分にリラックスしていただいた状態で処置や手術を受けていただくか、笑気ガス麻酔や静脈麻酔を用いての沈静下に施術を行うとこのような症状を起こさずに施術を受けていただくことが可能となります。
もしこのような迷走神経反射ではなく、本物のアレルギー反応だった場合でもそれがキシロカインに対するものなのかどうかはまだ検討の余地があります。
それは、キシロカインアレルギーが疑われたケースで迷走神経反射ではなかった場合、その原因物質は実はキシロカインではなく、キシロカインに添加されている防腐剤である”パラペン”に対するアレルギーであることが多いからです。
実はキシロカインにはエピネフリンという血管収縮剤が添加されているタイプと添加されていないタイプがありまして、
このエピネフリンが添加された製剤には防腐剤として”パラペン”という物質が含まれています。このパラペンにアレルギーを起こす人がまれにいらっしゃいます。
この場合は、パラペンが添加されていないエピネフリンなしのキシロカインを用いると大丈夫なケースが多いです。
ちなみにエピネフリンは血管収縮作用があり、手術に伴う出血を抑制する作用と、局所麻酔薬が早期に血液に乗って拡散し、効果が落ちるのを防ぐ(局所麻酔の作用時間の延長効果)効果があります。ですので、パラペンアレルギーがない方はエピネフリン添加タイプを使うことがほとんどです。ただしこれは形成外科領域の話であるため、形成外科以外の診療科での局所麻酔はエピネフリンが添加されていないキシロカインを用いるほうがむしろ多いかもしれません。
では、本物のキシロカインに対するアレルギーだった場合はどうしたらよいでしょうか?この場合、まずは診断を確定させる必要がありますので、総合病院の皮膚科などでアレルギー検査を受けていただき、どの薬剤に対してアレルギーを起こしているのか、アレルギーを起こさない麻酔薬はどれかを特定する必要があります。
もしキシロカインに対するアレルギーが確定した場合、ほかの代替となる局所麻酔薬は、キシロカインとは類似の化学構造をしていないタイプの麻酔薬から選ぶ必要があります。
局所麻酔薬はその化学構造からふたつの種類に分けられます。具体的には”アミド型”と”エステル型”に分けられます。キシロカインは”アミド型”に入ります。よって、キシロカインに対するアレルギーがある方はできれば”エステル型”から投与薬剤を選択する必要があります。
エステル型で浸潤麻酔として実際に用いられれているのは”プロカイン”です。
この製剤はエステル型なので、キシロカインとは構造が異なりますので、アレルギーを起こさず使用できる可能性があります。
ただしあくまで”可能性”ですので、必ずテストをして大丈夫であることを確認してからの使用が原則となります。
キシロカインアレルギーがある方に歯科領域では”シタネスト”、医科領域では”マーカイン”、”カルボカイン”が用いられることがありますが、これは一般的には間違いです。なぜかというと化学構造がキシロカインと同じ”アミド型”であるからです。マーカインに至っては薬理作用がキシロカインより強いために、キシロカインアレルギーがある方に使ってしまうとより強いアレルギー症状を惹起し、最悪ショック症状を呈する場合すらあります。シタネストは歯科でキシロカインがだめな方に比較的広く使われているようですが、シタネストで大丈夫な方はほぼほぼキシロカインアレルギーではなくて、単なる迷走神経反射であった可能性を考えるべきでしょう。
日本の現状としては、本物のキシロカインアレルギーである方は本当に稀でほとんどいないので、大半は迷走神経反射やパラペンに対するアレルギーで、実際はキシロカインを用いても大丈夫な方がほとんどであることをご認識ください。本物のキシロカインアレルギーの方はまずは。きちんと大学病院等で検査を受けることが必要であることも理解していただく必要があると思います。