インプラントになる5つの原因について
- 2023年1月8日
- 歯科
こんにちは。院長の中村です。
今回はインプラントになる5つの原因についてのお話を致します。
私たちにとって、歯はとても大切です!
歯を使って咀嚼する、噛み合わせるということは生きていく上で、また、健康寿命の延伸にとっても凄く重要です。私も含めて、多くの方が「できれば、一生涯に渡って自分の歯で食事したい!」と願っていると思います。
しかし、残念な事実をご紹介いたします。
平成28年の厚生省が実施した歯科疾患実態調査のデータ(こちらはインターネットで検索できます)を確認すると、40代になると、抜歯に至ってしまった歯が出始めて、70歳になる頃には、6〜8本ぐらい抜歯になってしまっているようです。
抜歯
そもそも、永久歯の数は、親知らずを除くと28本でして、もし、歯の数が24〜25歯以下になってしまうと、食事の際に咀嚼できる食品の種類が減ってしまうと言われています。傾向としては、体をつくるタンパク質や、私たちの体の中では作ることが出来ないビタミンやミネラルの摂取が減ってしまい、簡単に食べやすいパンやごはん(白米)などの炭水化物の割合が多い食事になってしまうようです。
食事の影響もあると思いますが、海外のリサーチによると、残存歯数が24本以下であった方は 、25 本以上の歯を有していた方と比べると、1.55 倍脳卒中を発症する割合が高かったという文献もあります。
さらに、歯の喪失に伴って、体幹のバランスも崩れて、転びやすくなったり、上記の原因も含めて死亡リスクが高くなったという報告などもあります。
このような咀嚼と健康寿命の延伸の関係については、他のコラムで詳しく書きたいと思いますので、今回のコラムでは、インプラントについての説明と、大切な歯がなぜ抜歯になってしまい、インプラント治療が必要になってしまったかの5つの原因についてご説明したいと思います。
まず、インプラントについてです。
インプラント治療
私たちは、抜歯になってしまった時は、治療の選択肢としては以下の4つになります。
1:何もしない
2:入れ歯
3:ブリッジ
4:インプラント
となります。
1:何もしない
リスクとしては、もちろん咀嚼力は減少します。さらに、抜歯された歯の反対側(仮に上の歯を抜歯したときは、下の歯)、隣の歯がズレ始めます。これが引き金となって口腔内全体の噛み合わせのズレ・不調和が起き始めます。この状況を放置することによって、抜歯された1本だけの問題が、残っている全ての歯に悪影響し、ひいては、全身の姿勢、健康状態にも影響していきますので、お薦めしたくない選択肢です。
2:入れ歯
入れ歯の場合は、抜歯になった歯の部位や、本数にもよりますが、一般的に、全ての歯が自分の歯だった場合にくらべて、部分入れ歯の咀嚼能力は、20%〜60%と言われています。さらに、総入れ歯の咀嚼能力に至っては、10%〜20%と言われています。ですので、食事の際に食べられるものが減少していくこともあります。
また、部分入れ歯の場合、構造的に入れ歯部分だけでなく、残っている健康な自分の歯にも、本来欠損した歯が負担すべき咬合力が加わってきますので、数年間使用した時に、負担が大きかった歯がグラグラして、抜歯に至ることもあります。虫歯の点からは、入れ歯と隣接する残存歯部分に出来てしまうことを見受けますので、注意が必要です。
3:ブリッジ
インプラント治療が普及する前は、咀嚼力の回復という点ではメリットがある治療方法でした。また、現在でも、前歯の審美的な治療については、インプラントに比べて行いやすい場合もあります。
ですが、1番のデメリットは、抜歯に至った歯の両隣の歯を大きく削らなくてはならないという点です。言い換えれば、仮に1本の歯が抜歯になったときに、両隣を含めて3本の治療になるということです。
ブリッジは、支えになっている歯に、接着・合着して固定しますが、やはり、固定源になっている歯には、欠損歯部分の咬合力の負担もありますし、生活の中で色々な方向からの咬合力が加わってきますので、経年的に、一部の歯への接着・合着が弱くなって部分的に外れることがあります。早めにこの状態に気づくけば、まだいいのですが、実際には完全に外れるまでわからないこともあります。そのような時は、先に外れてしまったブリッジの内部に虫歯に関連する菌が侵入し、大きな虫歯になってしまうこともあります。
4:インプラント
インプラントとは、歯の抜けた部分のあごの骨に、デンタルインプラント(人工歯根)を埋め込み、人工の歯をその上に装着する治療法です。歯が無い部分がある方、抜歯しなければならない歯がある方、まったく歯が無い方までのすべての方がインプラント治療の適応となります。埋め込まれたインプラントは、骨と結合してしっかりと固定され、咀嚼力・咬合力は歯槽骨と呼ばれる骨によって支持されますので、天然の歯を支えている仕組みとほぼ同様です。
また治療に際して、他の治療方法と違い、残っている欠損周囲の健全な歯にストレスや害を加える事無く、治療を行うことが可能です。
咀嚼能力も自分の歯に比べて同等です。ですので、しっかりとしたインプラント治療ができれば、本当に良い治療方法だと実感しています。その反面、残念ながら、インプラント治療の失敗についても過去に報道されたことは事実です。
インプラント治療の失敗
インプラント治療には、二つの要素で構成されていると言われています。一つは、外科的な治療の面、もう一つが噛み合わせ治療的な面です。
究極の目的は、咀嚼機能の回復・改善ですので、噛み合わせ治療となります。
私は、個人的な考えとして、出来れば、これらの両方を一人の歯科医師が極めるべきだと考えています。
まず、安心・安全にインプラント手術を行うことは凄く大切です。ここを疎かにして、噛み合わせ治療の段階には進めません。いうなれば、この外科的な側面は、「インプラント治療は噛み合わせの改善・回復の一つの治療方法である」という「噛み合わせ治療」という目的を達成するための重要な過程となります。
実感していることの一つは、外科と噛み合わせの両方の面から診断・治療ができてこそ、色々と、細かくも、多くのことを考えながら精度の高い治療が必要ということです。
さらに、もう一つ大切な三つ目の要素があると考えています。それは、インプラントになる原因(抜歯になってしまった原因)の解決です。問題の原因を解決しないで引きずったままですと、インプラント治療をしても、例えば、
インプラントに不具合が生じる、
他の歯が悪くなる、
噛み合わせがしっくりこない、
など、同じようなことを繰り返してしまう可能性があると実感しています。
抜歯の原因としては、永久歯の抜歯原因調査報告書によると
第1位:歯周病 37%
第2位:虫歯 29%
第3位:破折 18%
上記以外の複数の理由(矯正治療の際の便宜抜歯も含む):16%
となっています。
破折とは、歯が折れることによって抜歯に至ってしまったということです。聞き慣れないかもしれませんが、虫歯が深く進行し神経を取った歯に起きてしまうことがあります。歯の内部の狭い部分には、神経の他に、栄養を送るために、細い動脈や静脈といった血管がありますし、リンパやその他の細胞も存在しています。
神経を取る治療(根管治療といいます)に際して、内部の血管など全て取ってしまいますし、治療に際しても比較的大きく削らなくてはならないこともあります。
結果としては、歯の強度が落ちてしまいますので、噛む力の伝わり方が良くなかったり、神経を取ってから長く期間が経っていると、折れてしまうことがります。
また、同じ歯で何度も根管治療を繰り返すことによっても、治療の度に歯の強度が弱くなる可能性もあります。
ところで、私たちは生きるために、食事をしますが、その際に咀嚼という行為をします。私たちは1回の食事あたり、620回咀嚼しているようです。時間にして11分だそうです。参考までにですが、弥生時代は、3990回で、51分だったそうです。弥生時代は、固いものを長い時間噛んでいたということになりますので、歯の擦り減りも激しかったと思われます。
現在では、以前に比べると、食べ物が柔らかくなったことと、歯の治療ができるようになったことで、歯の寿命は格段と長くなったと思います。1回の咀嚼で歯が受ける力は、12.4kg〜22.3kgと言われています。そこで、仮の計算ですが、永久歯を90年間使ったとしますと、
約20kg×620回×3回(1日)×365日×90年=1.222.020.000kg
の力が歯に加わることになります。
これを考えただけでも、正しい方向で歯に力が伝わるためにも、良い噛み合わせが大切であって、もし、噛み合わせが悪くて一部の歯に噛み合わせる力が負担が集中したり、悪い角度から歯に力が加わったりすると、何らかの問題が生じることがお分かりいただけたでしょうか。
そこで、抜歯の原因 つまり インプラントになる原因を整理してみると、
1:歯周病
2:虫歯
3:根管治療
4:歯根破折
5:噛み合わせとの組み合わせ
となります。1項目ごとに見ていきます。
1:歯周病
歯周病菌がいるので、歯周病という単純なことでなく、実は、歯周病が発症するには、
・全身的な健康状態、
・生活習慣、
・そして、口腔内環境、
・体質(遺伝)
の4つの要素が関係していまして、歯周病の病原性とのバランスにおいて、弱くなってしまった時、歯周病が発症します。ですので、インプラント治療に際しても、体質以外の3つの要素のコントロールが必要です。
もし、インプラント治療前に歯周病がコントロールできなければ、または、インプラント治療後のメンテナンス期間に、そうなってしまうと、インプラント治療も失敗し、さらに他の歯も悪くなってしまうかもしれません。
インプラント治療にとって、とても重要な要素になりますし、歯周病の方のインプラント治療の経過は、他の方に比べて少し良くないので、気をつけることが必要です。
噛み合わせの点からは、歯周病によって歯が動いてしまい、悪くなっていることもありますし、咬合性外傷とよばれる一部の歯に噛み合わせの力が集中し、歯がぐらぐらすることから、最終的に抜歯に至ることもあります。
2:虫歯
虫歯の原因としては、
・虫歯菌
・唾液
・生活習慣
の3つの要素が関係しています。生活習慣には、歯磨きの習慣も含まれます。こちらが原因の場合は、もちろん改善する必要があります。
インプラントは虫歯になりませんので、虫歯が原因で抜歯になってしまったときは、歯周病の良きに比べて経過は良いと考えます。ですが、インプラント以外の歯が虫歯にならないように、ケアは必要です。
虫歯で抜歯になった時は、残根状態と呼ばれるほとんど歯の形がなくなったようになることがあります。そうなってしまいますと、隣の歯や、噛み合うべき上下的に反対側の歯のずれが起きていて、噛み合わせが悪くなっていることがありますので、その点にも考慮が必要です。
3:根管治療
根管治療の成功率は100%ではありません。ですので、何度も同じ歯の根管治療をしている方も少なくありません。過去に根管治療の講演で聞いたのですが、日本は世界でも再根管治療になる方が多いようです。
残念ながら、根管治療では治らないという時に、抜歯が必要になることがあります。その時は、歯を支えている歯槽骨へのダメージがあり、骨造成などの再生療法が必要になることもあり、その時は治療の難易度があがります。
また、根管治療中に仮歯を入れていないと、歯がずれてしまいますので、噛み合わせが悪くなっていることもあります。経過に関しては、もともとは大きい虫歯が原因ですので、2と同様の経過と考えていいと思います。
4:歯根破折
前述したように、根管治療後の歯の強度や、治療後の経過年数によって、咬合力が加わったときに、歯が折れてしまったことが原因での抜歯です。
ここで注意すべきことは、ほとんどの場合、噛み合わせの問題があります。場合によっては、就寝時の歯軋り・食いしばりも関連することがあります。
インプラント治療後の経過時に、インプラント上部構造のトラブル、インプラントの破折、インプラントと噛み合う歯のトラブルなどが起きることがあります。
5:噛み合わせとの組み合わせ
これまで、1〜4の原因について説明してまいりましたが、全てに噛み合わせが関連している可能性があるということが伝わったでしょうか。もちろん、噛み合わせの問題だけで抜歯になってしまう方もいます。その時は、神経の歯であっても割れてしまったり、一部の歯の周囲の歯槽骨が、溶けてしまい、歯がぐらぐらしてしまうこともあります。
患者様によっては、残存歯のなかで部分的な対応で解決しそうな方から、全体的な治療に取り組んだ方が良い方まで、患者様毎に診査・診断が必要です。
噛み合わせ
まとめますと、このように、インプラント治療になる原因としては、5つですが、ほぼ全ての原因と噛み合わせが関連しています。
ですので、1本の歯が抜歯になってしまったときに、その部位に1本インプラントをするだけで、治療が解決するということはありません。噛み合わせのこと、歯周病のこと、生活習慣のことなど考えるべきことは沢山あります。
上記のことをトータル的に行うことで、はじめてより良いインプラント治療が行えると思います。